「感覚を開く」

この場所に"組む"をつくる理由

自分は江戸生まれの人間のような気がしています。
小さい頃聞いた、魚売りや夜鳴きそばの声。
物干し台の上から見た広ーい東京の空。
子供の頃は、自分とまわりとの境界が曖昧で、
ふわーっと町とまじりあいながら暮らしていました。
私の中にある私の生まれた町は、どこか江戸の空気をまとっています。

"組む"をつくるこの場所は、馬喰町や小伝馬町にほど近い、
人形町と浅草・蔵前を結ぶ中間あたりのロケーション。
祖父がつくった築60年の建物は、父の生家の向かいにあって、
長い間倉庫として使われていました。

当時、この辺りでは珍しかったコンクリートのこの建物も、
長年の澱みが生まれ、あちこち傷みもはげしくなっていました。
まずは、マスクとつなぎで埃まみれの片付けからスタート。
上下水道や雨仕舞いの不具合など、次々と難題が浮上しました。
初志を忘れて、片付けもリノベも必要ない小ぎれいな物件を
借りたほうがよかった??と頭をよぎるほどでした(笑)。
路地を入った目立たないところにありますし。
でも路地のほうが好きなんです。
空間もよく見ると魅力的な要素がいっぱい。
仲間と声をかけあい、そんな場にエネルギーを吹き込み
再生する試みがはじまったのは、約2年前です。

さて、父が写真の中で着ている半纏は、
長年累積した荷物に埋もれた茶箱の中から見つかりました。
胸に「中川製車場」とあるのは、先々々代の頃、
実家の中川家では大八車を作っていたから。
この半纏をおいてくるとツケで飲めたというのですから!
なんとも風流な話です。
それを着させていただいて、ご先祖様達にもこの場を開くご挨拶です。
来月は神田祭りもありますし、氏神様も御神輿でチラッとおよりくださるかも。
このとてもパーソナルでローカルな空間から、
未来に、世界に、心に灯りがともるような発信ができるといいなと、
イメージのスケール感だけは大きい、組むの始まりです。

2015.04.18